テルナテ島皆既日食・概要編

Keietsu Sayama
(1)7年ぶりの参戦
2016.3.9の皆既日食〔サロスbP30…52/73〕は、インドネシアのインド洋からから始まり、インドネシアの島々を経て、グアム沖で正午中心食を迎えた後、米領ハワイ諸島の東北沖で日没となります。

1サロス前の1998.2.26は、ハワイ南東沖から正午過ぎにコロンビアとベネズエラを通過してアフリカのモロッコ西北沖にかけて見られました。

当時は、ベネズエラのマラカイボ近くにあるカラスケーロという街で観測出来ました。今回は皆既帯が通過する陸地が全てインドネシアの島々なため、陸路で自由に遠征が出来ないというリスクを背負います。 事前に現地天候の予想を立てなければならない日食でした。今回はツアー料金が他社より比較的安かったセブン旅ネットのテルナテ島Bコースに遠征します。
2016年3月9日の皆既日食帯地図
2016年3月9日の皆既日食帯地図
皆既日食ツアーの参戦は2009年の豪華客船ふじ丸で行く北硫黄島沖皆既日食以来。7年間も遠征に行けないとは思わなかったのですが、どうしてもツアーの遠征費用を調達することが出来なかったのです。

ツアー代の他にも決め手となったものがありました。今年の1月末に日食フェア2016が都内で開催されたのですが、日食情報センターの石井馨さんが2016年の日食概要と観測地情報を解説された際、2015年後半よりエルニーニョ現象が顕著に発達して2016年春までは1997年以来のスーパーエルニーニョ現象となるそうです。

このことで過去の気象統計はあてにならなくなります。ペルー沖の海水温が上がり、その東西では低気圧の勢力が強まり平年より降雨が多くなります。さらにその西側にあたるインドネシアでは高気圧の勢力が強まって平年より少雨となります。このことはインドネシアの皆既帯が晴れやすくなることを意味します。冬場にエルニーニョ現象が発生してシベリア寒気団の影響も弱まり日本では暖冬になりました。一時期寒気団に覆われましたが、平均のDATAから見ると暖冬だったと言えます。

実際にエルニーニョ現象が起こった年の過去の気象衛星写真をプレゼンされたときが予報の裏付けとなっています。確かに周囲の雲が皆既帯では見られなかったです。まとめるとインドネシア中部〜東部にかけては好条件の観測場所になるとのことでした。
テルナテ島の位置
テルナテ島の位置

ジカ熱の流行地域
ジカウイルス感染症の症例が報告された地域(東南アジアを抜粋)

(2)ジカ熱の懸念
皆既帯が通過するインドネシア全域でジカウィルスによるジカ熱が発生しています。人口希薄地帯である山岳地域には症例がほとんどないことから、観測地全域でジカ熱の発生が懸念されます。

ジカ熱はジカウイルス(Zika virus)がネッタイシマカによって媒介され発症し、病態はデング熱に類似します。ジカ熱に対する特異的治療はなく、対症療法しかありません。デング熱と比較すると軽症で治ります。発症を防ぐワクチンや治療薬はなく、蚊取り線香や蚊帳などで蚊さされを防ぐことが唯一の感染対策です。
ネッタイシマカ
ネッタイシマカ
ジカ熱の潜伏期間は3〜12日ほど。感染率は約80%。2007年のミクロネシア連邦(ヤップ島)の流行では、発熱(38.5℃を超える高熱は比較的稀)、斑状丘疹性発疹、関節痛・関節炎、結膜充血が半数以上の症例に認められ、筋肉痛・頭痛(45%)、後眼窩痛(39%)でした。その他にめまい、下痢、腹痛、嘔吐、便秘、食欲不振などをきたす場合もあります。

ポリネシアやブラジルでは、ギラン・バレー症候群や神経症状を認める症例が報告され、ブラジルでは妊婦がジカウイルスに感染することで胎児が感染し、小頭症児が多発しています。胎児が小頭症と確認された妊婦の羊水からジカウイルスRNAが検出され、小頭症で死亡した新生児の脳の病理組織からもウイルスが検出。ジカ熱そのもので健康な成人が死に至ることは稀ですが、基礎疾患があり免疫力が低下している場合は死に至ることもあるそうです。
CDCによるジカウイルスの電子顕微鏡写真
CDCによるジカウイルスの電子顕微鏡写真

ジカ熱はデング熱と比べて軽症で、通常は4〜7日間症状が持続します。痛みや発熱に対して解熱鎮痛剤を投与する程度にとどまることがほとんど。脱水症状が強い場合は輸液も実施します。予防に関しては、日中に蚊(ヤブカ)に刺されない工夫が必要です。具体的には、長袖服・長ズボンの着用、昆虫忌避剤の使用など。妊婦あるいは妊娠の可能性のある女性は、ジカ熱流行地への渡航を避けることが望ましい。
ジカウイルスが原因の胸に発疹
ジカウイルスが原因の胸に発疹

普段から湿度の高い夏は汗っかきなので非常に蚊に刺されやすい体質の私は、日本から蚊取り線香皿2つと蚊取り線香と虫よけスプレーを持参して蚊に刺されないよう万全の態勢を敷きました。

ザンビア皆既日食の紀行文では詳しく書かなかったのですが、観測当時は敷いたゴザの上に2種類の蚊取り線香と虫よけスプレーで結界を張ってホテルから借りた椅子に座って観測していました。現地では冬至のため虫は、ほとんど発生していなかったようです。世界的にジカ熱に晒されていることが多い熱帯地域なので、虫刺されの予防は万全にした方が良いのです。

蚊取り線香皿
日本から持参した蚊取り線香皿

ジカ熱の流行地域
2015年12月時点でのジカ熱が流行している地域

管理者に無断での使用・複製・転載・流用禁止
概要編  出発編  戻る
count