(1)観測場所の選定について
今回は皆既帯の最大幅が大陸の一部を通過するので観測場所は限られますが、その分継続時間が約4分と久々に好条件の皆既日食です。本来はベネズエラより継続時間の長いコロンビアで観測したいのですが、唯一のツアーが最小催行人員に満たないので断念しました。皆既日食の前後に滞在するホテルはマラカイボ市内です。その北部にあるグアヒラ半島はカリブ海に面した地域がベネズエラ領でそれ以外はコロンビア領です。 |
1998年2月26日の皆既日食帯経路図 |
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南米北部一帯は5月〜11月の雨季を『冬』12月〜4月までの乾季を『夏』と区別しているように雨のあるなしで季節を区分しています。今回の皆既日食は2月26日なので乾季の真っ只中で晴天が保障されます。黒い太陽は間違いなく見られるでしょう。
ベネズエラは南米大陸にある国ですが、国土の南限が赤道に達しないので北半球の国です。ステップ気候のため、いつも暑く季節感がありません。普段でも30℃を超えますが、乾季は湿度が低く乾燥しているのであまり暑さを感じないのです。 |
マイアミ空港にて |
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(2)カリブ海に魅せられて
今回は2月に入ってから急遽コロンビアツアーが催行中止となり、他にまだ人を受け入れてくれるツアーをパンフレットから捜し、その中で一番安かった風の旅行社にお世話となりました。
2月23日の夜行便で成田空港から日付変更線を通過してL.Aを経由し、マイアミ空港に隣接するホテルへ泊まります。丸二日かけての大移動で髭も伸びました。翌朝はマイアミからベネズエラ・カラカスまで移動します。 |
ベネズエラ・サビエンサ航空 |
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移動中の機内で自然からの素晴らしいプレゼントを目の当たりにしました。マイアミ→バハマ諸島を通過する飛行機の窓から飛び込んできた景色は、マリンブルーの海と大陸棚から深海まで海の色のより鮮やかなグラデーションでした。
太陽をいっぱい浴びた珊瑚礁の白い砂に覆われた島とマリンブルーの海。この吸い込まれるような景色は、時間を忘れさせてくれます。この時は、運良く窓側に座れたので島の写真を撮ります。 |
バハマ連邦・ビミニ諸島 |
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最初に飛び込んできたεの形に似た島が印象的で写真を何枚も撮りましたが、帰国してからNHK"生き物地球紀行"を見たら、その島の特集を放送していました。
正式名称はビミニ諸島で、南北二つの島で構成されています。島ではイセエビ漁が盛んで、漁師は船上から水中眼鏡を使い、鑓の先を横に伸ばした形の棒をイセエビが隠れている岩陰にゆっくりと差し込み、居場所を追い出されたエビを網ですくいだす漁法で生計を立てています。 |
小島と大陸棚 |
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イセエビの生態系についても触れていて、稚エビが成長すると外洋に出て生活するので様々な危険から逃れるために列をなして海底を行進する様子が放送されていました。ベネズエラのサビエンサ航空は西インド諸島を南下するようにしてベネズエラまで飛行します。
途中、大陸が見えたかな?と思ったら、イスパニオラ島でした。ハイチ共和国とドミニカ共和国、二つの国家を抱えている結構大きな島です。 |
岬に浮かぶ雲 |
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(3)ベネズエラに上陸
やがて海から陸地に近づいたらすぐに着陸しました。カラカスは標高1000mの盆地にあるのでもっと高いところに飛行場があるのかなぁと思っていたら、市内へ行くにはバス等で1000m登って行くのだそうです。
飛行場が低地なのでとても暑いです。今日は昨日より豪華なカラカスヒルトンホテルに泊まります。食事の後でホテルの中庭から星座観測をしました。 |
カラカス・ヒルトンホテルにて |
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カラカスは盆地でベネズエラの首都だから交通量も多く、大気がモヤッているので観測は諦めました。カノープスが見える高さはビルに囲まれて見えないし、明日に備えて早く寝ることにしました。
翌日は早朝のフライトでマラカイボ空港に着きました。空港の到着ロビーに向かう途中で、ベネズエラ国旗を巨大に模作した"Bienvenido VENEZUELA"と太陽と月が重なった絵が描かれた旗が壁に掲げられていたので、記念写真を撮りました。 |
Bienvenido VENEZUELA |
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空港から出たら現地駐在員のカンデスツアーが我々を迎えてくれました。ツアーが用意したバスで観測地の下見に行きます。場所はマラカイボ市の北西約50qにあるカラスケーロ町ドン・ボスコ農工学校校庭。既にツアー毎の陣地が決まっていて、私たちの観測場所は校庭の端っこでトイレと鳥小屋の近くでした。
私はここまで移動のつらさと気温差で身体が思うように動けません。青森の実家を出てきた時の気温は−6℃、こちらは35℃以上あります。 |
観測地 ドン・ボスコ農工学校 |
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校庭の反対側まで行くと、観測機材が数多く設置されている場所があってスロバキア国旗まで掲げられていました。隣のテントの横断幕は"INDIAN EXPEDITION"と青地に金色の文字で書かれていました。インドの天文研究所(バンガロール市)からの出張で、そこには見慣れない観測機器が多数置いています。
現地のGPSは 北緯 11°03´71" 西経 72°03´20" (藤井 龍二氏のGPSを借用) |
INDIAN EXPEDITION |
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(4)観測機材の準備
マラカイボのホテルに戻って観測機材の確認を始めました。日食の撮影に使う機材は私の場合ベテランの方よりも若干身軽です。赤道儀を持たないので、カメラと三脚が二台ずつの固定撮影です。一台目は減光フィルター(D4:ND10000相当)で部分日食を撮影します。こちらは感度が低いISO100のFILMを使います。使用レンズは部分日食が300oF5.6の望遠レンズに2倍のテレコンバーターを付けて焦点距離を600oで撮影 |
皆既日食の横断幕 |
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皆既日食の時は望遠レンズを外し、24oF3.5の広角レンズで皆既中の本影錐の移動を撮り、50oF2.8の明るいレンズでコロナの周辺に見える水星と木星を狙います。皆既日食が終わったら引き続き600oで部分日食を撮影します。二台目はフィルターを使わずに皆既日食の瞬間だけを撮影します。これはレンズが暗いので、シャッタースピードを安定させるために感度の高い ISO400のFILMを使います。使用レンズは500oF8反射望遠です。カメラのブレ対策ですが、一眼レフを長焦点で撮影する場合、反射ミラーが作動したショックで |
太陽を観測する私 |
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被写体がブレます。特に1/8〜1/30秒あたりがブレやすいのですが、それより高速か低速側だとブレを減らせます。完全にブレを無くするには筒先開閉法が有効です。これは先にレリーズでカメラのシャッターを開けたまま固定して、レンズの揺れが収まってからあらかじめレンズの筒先を閉じていたシャッター板を開いて対象となる被写体を露光します。コロナを撮影する場合、1秒開けたらシャッター板を閉じてレリーズのシャッターを切ります。これで外部コロナがシャープに写ります。 |
観測地カラスケーロの街並み |