豪華客船皆既日食・観測編
(7)3年ぶりの皆既日食
皆既1分前にビデオカメラの減光フィルターを外します。よりピントが合いやすくするためですが、ビデオカメラで撮ってもかなり揺れるので冷静に考えると銀塩では写真にならないのが目に見えていました。悲しいかな…銀塩FILMだけあって、現像しないと結果が分かりません。きっと失敗作の連続写真に違いありません。それでも目の前に起こる現象を捉えようと、撮影を続けました。
第二接触は、今世紀最大級の継続時間だけあって月と太陽の接触点が少なく、あまり迫力の感じられないダイヤモンドリングの閃光が見られました。
第二接触のダイヤモンドリング
その時シャドーバンド専用のビデオカメラには、白い排気口の上に細波のようなシャドーバンドが映っていました。デッキの床が薄茶色だったので、誰もシャドーバンドには気が付いていない様子です。別撮りしたビデオカメラには、僅かに映っていました。
銀塩での撮影を中断してビデオカメラの向きを変えると同時に、露出を変えます。すると、典型的な極小期型のコロナが見えました。1994.11.3にチリで見た皆既日食のコロナに若干似ているようです。昨年三塘湖の悲劇でロクにコロナを見られなかったので、船上の歓喜と言う題を付けたのが今回のコロナです。
船上の歓喜
皆既時間が長かったのに銀塩のFILM交換に追われ、かなり焦りました。カメラのFILM残数表示が昇順だと勘違いして、撮影途中でFILMが終了したので巻き戻ってしまいました。この時点で銀塩の撮影はあきらめるべきなのにいつもの習性で交換しました。約1分間のロス。
その間肉眼で周囲の空を見たり、コロナの周りに惑星を確認したりしました。太陽活動が極小期によく見られる有翼日輪型のコロナは、磁気中性面が延々と伸びて太陽の南北には磁力線がハッキリと見えています。手元にもう一台カメラがあれば、皆既中の海上を360度撮影出来たのですが…
第三接触のダイヤモンドリング
そうこうしているうちに、もう第三接触のダイヤモンドリングを告げるアナウンスがありました。例え皆既継続時間が10分あっても一時間あっても全く足りないくらい時間の短さを感じました。ふじ丸を覆っていた本影錐はあっという間に船上を離れ、遥か彼方の海上に消えていきました。
トップデッキには観測成功を告げる雄叫びの声、感動の絶叫が聞こえました。私はこれまで見られなかった3年間がやっと埋められたと言う思いで放心状態になっていました。色々な方が声を掛けて下さったのに、ロクな対応が出来なくて申し訳なく思っています。
船上の部分日食
観測を終えてトップデッキから帰還する際に見た海の青さは、日本本土では見られないような濃い青をしていました。普段日本の港で見られる抹茶色の海の色とは大違いです。改めて、ここは日本だけど日本ではない南洋に来たんだ…と実感しました
。機材を部屋に運び入れ、遅めの昼食を取ります。この時は、身も心も放心状態で無言で食べていました。同席したカップルに言われるがままの質問に答えその場を立ち去ろうと思ったのですが、ほんの少しのきっかけで話に華が咲き名刺交換まで至りました。その日の日没は、いろんな感慨もあって特別なものとなりました。
硫黄島沖の日没
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