サロス周期とその解説

サロスとは紀元前数世紀からカルデア人(古代バビロニア地方の天文学に詳しい 人々)によって知られ使われていた日食の周期です。日食の発生する原理は、太陽の黄道と月の白道が交差した地点でしか起こり得ません。日食は日(太陽)が食される事で、当然のごとく日中に起こります。また、新月の時にしか日食はありません。黄道と白道は約5度で交差していて、交差点に地球が差し掛かるのは、平均して年2回程です。これは半年の間隔で発生します。逆に言えば、地球上のどこかで金環か皆既日食はセットで年2回ずつ見られます。まれに部分食しか見られない年がありますが、後述する本影の中心がいずれも地球上を通らない為、部分食となります。

日食当日は、最初から太陽と月が重なって出てくるとは限りません。日の出から約20分ほど遅れて月が出ます。ある地点で太陽と交差した月は、日の入りから5分ほど遅れて沈みます。それは前述の黄道と白道の軌跡の曲がり具合が違うから。地図上では、西から東に月の影が移動します。地球は自転しているので、日食の長さは昼の地域全てが見られるわけではありません。また、中心食が皆既日食や金環日食になるのですが、その差は太陽と月が重なった影(本影)が地球上に届くか届かないかの差です。本影が届くのは皆既日食、届かないのが金環日食です。現在太陽と月の視直径の差がほぼ同じなので、こうした微妙な日食になります。

月の大きさの差は白道が楕円軌道なので、楕円が地球に近い地点で月が大きく見えて、逆に地球から遠い地点は月が小さく見えます。これは一か月(正確には28〜29日)周期で変わります。太陽は1年周期で変化します。1月上旬は、地球が最も太陽に近いので近日点となります。7月上旬が、最も太陽から地球が遠ざかるので遠日点となります。この日に月が地球に近く、新月で日食が起これば最大で7分30秒もの皆既日食が見られます。現実はなかなか都合の良い日食はないもので、20世紀では1955.6.20に南シナ海で見られた7分7秒もの皆既日食が最大でした。

稀に太陽と月の視直径の差がほぼ同じになると、金環皆既日食という珍しい日食が見られます。これは全地球的につけられた名前です。太陽と月の影が走る地球上は、ほぼ球体なので正午に見られる日食が皆既になり、明け方と夕方に見られる日食が金環日食になります。もっと微妙になると皆既と金環の遷移地点があります。1987年3月29日に、アフリカのガボンで見られた金環皆既日食がまさにそれでした。報告書によると、皆既日食に見られるダイヤモンドリングがビーズのように連なっている事が確認されています。現地の天候は薄曇りでしたが、フィルタなしで観測できたそうです。太陽の光が残っているので、コロナは見られませんが、プロミネンスは確認されたようです。次のサロスは、2005年4月8日に中米のコスタリカとパナマで見られました。この日食の正午中心食は42秒の皆既日食が見られますが、海上なので観測は不可能です。唯一の陸地がコスタリカとパナマですが、ここでは1秒の金環日食になります。金環日食の前後は6秒ほど全周に渡ってベイリービーズ(全周ダイヤモンドリング状態)が見られました。このエピソードについてはパナマ裸眼金環日食に紀行文として書きましたので、参考までに御覧下さい。

サロス周期の話に戻ります。厳密に言うと、1サロスは18年と11日と8時間後に同じ規模の日食が起こる事を言います。8時間後は地球が120度回転するので、同じ場所に日食が回帰するのは3サロス後になります。ここにサロスNo.120番の皆既日食帯の入った地図を用意しました。確かに3サロス後には、同じ地点で日食が見られますが、若干位置がずれていますね。実は、ここのサロスが終わりかけているのです。この日食の最初の発生地点は、南極で小さな部分日食として、初めて半影が地表に触れました。半影とは本影から外れた部分で、半影が接した地表では部分日食となります。

サロスNo.120番の日食

サロスNo.120番の日食は全部で71回見られますが、1997年3月9日にシベリアで見られた皆既日食は60回目の日食でした。このようにサロスが進むと、南極で見られた日食が北極に遷移します。その間に部分日食から金環日食→金環皆既日食→皆既日食へと中心食が成長します。最初は半影が地表をかすめただけの日食が、このサロスでは、地球の北極側に移動するに従って徐々に本影が地表に到達します。赤道で金環皆既日食として成長したサロスは、1582年9月22日に皆既日食となりました。その後、2033年3月30日にアラスカで見られる62回目の日食まで皆既日食が見られます。次の63回目に見られる日食は、本影が地表に届かない部分日食になります。その後71回目に半影が北極をかすめ、サロスNo.120番の皆既日食が終了します。1つのサロス周期が終わってもまた別のサロス周期が成長するので、日食現象が途絶える事はありません。このようにサロス周期という観点から、日食を見るのも面白いと思います。

☆天文学でみたサロス周期の解析
天文学的には、サロス周期は月と太陽の周期の倍数が同じ(公倍数)になるために起こります。1サロスは以下の時間に等しい。
223 朔望月(新月から次の新月までの周期)に等しい。
242 交点月(月が昇交点を通過する周期:月が地球の軌道面と2回交差する周期)にほぼ等しい。
239 近点月(月が近地点を通過する周期:月が楕円軌道を公転する周期)に等しい。
18 近点年に等しい。

このため、食の条件も1サロス前と非常に似たものとなります。(太陽と月の合または衝が月のどちらかの交点で起こる、すなわち月が軌道面と交差するところで合または衝になる時に食となる。)
1サロス周期は223朔望月なので、ある朔(または望)を1番目とすると、そこから数えて223番目までの朔(望)はみな異なる周期に属します。224番目の朔(望)は、1番目と同じ周期に入ります。同時進行している223の周期のうち、太陽、地球、月がうまく重なるものは一部しかありません。その一部も毎回少しずつ場所がずれていき、やがて食を作らなくなります。その一方で、今まで食を作らなかった周期が食を作るようにもなります。
歴史時代に日食を作ったサロス系列には、van den Bergh (1955) によって番号が付けられています。2006年現在、117から155までの番号を付けられた39個の周期が進行していて、現在起こる日食はこれらのいずれかに属しています。日食のサロスの系列は食が69〜86回(1,226〜1,532年間)起こるまで持続します。平均すると77回(1,370年間)です。サロス系列の始まりと終わりは部分日食で、系列の中ほどに約48回の皆既食または金環食を含みます。

著作引用
1987.3.29 ガボン金環皆既日食観測報告書(日食情報センター)から文献一部引用
図はFifty Year Canon of Solar Eclipses:1986-2035から一部それぞれ引用しました。
天文学でみたサロス周期の解析はWikipediaの文献から引用しました。
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