(5)夜行列車と本物の星空 今夜は観測地シルカまでシベリア鉄道に乗って行きます。チタは22:00発ですが、駅にはホームがありません。大量の荷物を皆さん手分けして運びます。鉄路からタラップまで約1.5mあるので重い荷物を懸垂して運ぶのは大変(>_<) 寒さも吹っ飛びました。客室は寝台列車で通路が片側にあります。それぞれ4人づつ座り寝ないで好きな話に花を咲かせます。やがて、女性車掌が紅茶を持ってきました。一杯1000ルーブル(約20円) |
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AM3:00頃に満点の星が輝く無人駅へ到着しました。シルカはチタよりも寒く感じます。ツアーがチャーターしたバスは暖房が効かず、身体を震わせながら宿泊地のシバンダ静養サナトリウムに行きます。途中、完全に凍った川の上で停車。駅前にあった電灯がここでは一つも見当たりません。全員バスから下車して運転手がライトを消した時、辺りは完全な闇に包まれました。見上げると満天の星が輝い て銀河の傾きまで見えます。へール・ボップ彗星が見頃だったので観測します。約30分観測して身体も冷えた頃、全員バスに乗って宿泊地へ。 | |
荷物を宿に置いて機材を用意してから外で満天の星空を観測しました。改めて見ると彗星の尾が見事に二つに分かれていて、青っぽい尾はイオン、白っぽい尾はダストで構成されているそうです。日の出まで粘って撮影と観測を続けました。 朝6時、明日のリハーサルの為に観測地まで移動します。観測地で機材を立ち上げている方がいたので聞いてみたら、ここからインターネットにつなぎ皆既日食の様子を日本に送信するとのこと。NHKのスタッフではありませんでした。 |
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パラボラアンテナの方向を調整しているそうです。インターネットスタッフは観測地に留まり、我々は一旦宿に戻ります。一睡もしていないので、バスの中でも悪寒がします。ツアーに同行される方から使い捨てカイロをもらい、身体を暖めていたらやけに眠くなってしまいました。 宿に着いて遅い朝食を取ったら立てないほど眠くなり、部屋に戻って同室の方と寝ました。ドアをノックする音でいったん目が醒めました。昼食の時間らしいのですが、眠いので食事も断ってそのまま寝ていましたzzz |
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(6)宿泊設備に閉口(>_<) やっと目が醒めた頃には、もう夕食の時間が近づいていたので風呂に入ろうとしたら設備が…トイレとシャワーしか設置されていません。トイレは西洋式でフタがありません。シャワーにカーテンが備えていないので下手すると辺りが水浸しになります。シャワーの下には半畳ほどのスペースしか床がありません。排水溝も小さいです。アルミで出来た洗面器をトイレのフタにして身体を洗いました。結局水浸しになりましたが… |
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今夜はシルカ市長がシバンダ静養サナトリウムに来訪され、市長主催の歓迎パーティが始まります。シルカ市あげて観測に協力するとの事ですが、ロシア語で喋るのであまり内容がよく分かりません。シャンパンが出てきたので少し多めに飲んでしまいました。食事は魚料理が多く出てきました。ムニエルにしたり焼いたりして。 …夕食後、インターネット班がノートパソコンを立ち上げていたので覗きました。掲示板にコメントを書いていたので、私もコメントを書いて参加しました。 |
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(7)氷点下の日の出 今朝は日の出前から行動を開始します。私はトランクを宿に置いて、必要な機材等を持ってバスまで向かいました。寒さでエンジンの調子が悪いのか、薄明を過ぎてもなかなか発車しません。一人だけ部屋に忘れ物を取りに行った人が戻って来ないので、ツアーを主催したM氏がバスを発車させました。添乗員は顔が青くなっていましたがシバンダ静養サナトリウムも皆既帯に入っています。「時間に遅れた人はそのまま宿で観測させます。」と事前に参加者全員に通達してあったので、特に大きな混乱もなく観測地に到着しました。 |
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完全な快晴の下で斜めに陽が昇りました。荒野に浮かぶ太陽は、日本では見られないような美しさです。 現地のGPS 北緯 51°58’00" 東経116°34’08" 現地の予報 第一接触 8時57分26秒 第二接触 10時00分40秒 第三接触 10時03分21秒 第四接触 11時10分59秒 現地の皆既日食の継続時間は2分41秒です。 |
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機材を立ち上げる最中に温度計で気温も測りましたが観測地は−20℃です。アラスカで着ていたゴアテックス入りの防寒着と手袋を着けて、エスキモーの靴を宿で履いて完全な防寒をしました。それでもあまりに寒くて太陽と反対側の方角に設置されたテントで暖を取ります。 機材は荒野に設置したまま。風が吹かないので助かりましたが、カメラを保温しようとしたらカイロ灰をくっつけたガムテープがあまりの寒さに付きません(>_<) 貰い物のカイロを付けると良く付きます。これにはジャンパーをかけて保温しました。赤道儀がないので、カメラと三脚が二台ずつの固定撮影です。一台目は部分日食を、二台目は皆既日食だけを撮ります。部分日食は10分おきに撮影していたので、その間はテントで暖をとります。撮影の合間も手足が冷えるので、手はテントの暖房によくあたって足は三脚の下に発泡スチロールを敷いて荒野の寒さをシャットアウトします。あまりに寒いせいか、現地でよく飲まれているウォッカをがぶ飲みして「人間ストーブだ!」と言う方もいます。 |
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(8)シベリアの黒い瞳
やがて空が青く濃くなってきました。ふと温度計を見ると−30℃!あと少しで皆既日食です。心臓の鼓動がピークに達した頃、ダイヤモンドリングが輝きました。 太陽の右側から光が消えていき、まるで瞳のように横に伸びる極小期型のコロナが見えます。同時にピンク色のプロミネンスも見えて、その廻りに二つの惑星が輝いています。右下は水星で、更に右下は金星です。 |
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地平線に近い皆既日食なので、廻りだけが新月の暗い影に覆われていました。それが太陽方向に移動した瞬間、月の谷 から光が漏れてダイヤモンドリングになり皆既日食も終わりました。
ヘール・ボップ彗星が皆既中に見えたのですが、短い皆既日食の時間を犠牲にしてまで見る気がしないです。皆既日食とは言え、夜より明るいので彗星の尾も写真に写らなかったと思います。 |
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帰国後に投稿した日食観測会議発行の報告書には、コロナとヘール・ボップ彗星を同時に撮影した主宰者M氏の写真とDATAがあります。24oF4の広角レンズを使い、ISO400のフィルムで16秒も撮影して彗星の尾がやっと写ったので、彗星を撮影しなくて良かったのかも。
太陽はゆっくりと輝きを取り戻しました。そこに一人だけカメラの前に立って元に戻りつつある太陽を眺めている方がいました。人物の影が長く伸びて非常に印象的な写真となりました。 |
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気がついたら指に違和感があります。寒さでマニュアル撮影の予定が、勝手に自動になるのでカメラを調整する際に素手で操作していたのが原因です。故意による撮影の失敗はしたくないので、素手でシャッターを押しました。
昼前に太陽は完全な姿に戻りました。宿に戻って昼食を取ります。バスに乗れなかった方もいました。宿の前はロケーションが悪いけれど壁が白いので、皆既中でもあまり見られないシャドーバンドが東西に伸びた黒い帯で北の方に動いていた現象を確認したそうです。 |
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(9)あっと言う間に帰国
皆既日食の当日なのに宿には泊まらず、シベリア鉄道でチタに戻ります。車内ではあまり眠れず世間話をしていました。AM6:00到着、早速チタ空港に向かいます。 いつもは現地の新聞を買っていますが、そんな余裕すらないです。チタ空港で見慣れないツアーと合流しました。このツアーはチタで観測したBコースでした。こちらは日程が2日短く料金も25000円しか安くないので、最初からシルカへ行くAコースに決めていました。 |
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早速情報交換をしたところ、チタでは曇られたそうです。そう言えば昨日太陽が元に戻った頃、辺り一面が雲に覆われてしまいました。もう少し皆既日食が遅かったらチタのように曇られたかも。
ハバロフスクを経由して新潟空港に到着。日食翌日にすぐ帰国するのも、まるで皆既日食が終わったかのような早さです。現地の新聞を買いたかったのですが、今回はそれさえも叶いませんでした。初のインターネット中継は全世界から170万のアクセスがあったようで、こちらは大成功でした! |
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