■本影錐と擬本影 皆既日食の場合(食分1.000以上) 金環日食の場合(食分0.999以下) 本影錐の幅の変化 ■月と太陽の概要 ■各天体の直径と距離 太陽 月 地球 直径 (km) 1,392,000 3,476 12,756 地球までの平均距離(km) 149,598,000 384,400 月の直径は太陽の1/400で、月の平均距離は太陽の1/389です。そこで、月と太陽は地球上から見ると同じ大きさに見えます。 もし月の直径が273kmも小さかったり、もう少し地球から遠かったら、我々は皆既日食を決して見ることができなかったのです。 月の大きさも地球の衛星としては異常な大きさです。普通、木星ほどの巨大惑星が月ほどの大きさの衛星を従えているものです。 こうして惑星レベルで比較すると、皆既日食が起こること自体が非常に驚異的で珍しい現象なのです。 ■月の影の長さ 最大 最小 平均 月と地球の平均距離(km) 406700 356400 384400 月の本影錐の長さ (km) 379870 362230 373540 平均的に、月の本影錐が短くて地球には届きません。そこで、皆既日食が起こる頻度は金環日食より少ないことになります。 継続時間の長い皆既日食となるには、月と地球の平均距離が最小で月の本影錐の長さが最大である必要があります。 ■太陽と月の視直径(地球から見た場合) 最大 最小 平均 太陽の視直径 32´ 31.9" 31´ 27.7" 31´ 59.3" 月の視直径 33´ 31.8" 29´ 27.7" 31´ 05.3" 月の視直径は太陽よりも6.6%大きくなることがあり、皆既日食が起こります。 平均的に月の視直径は太陽より小さいので、皆既日食が起こる頻度は金環日食より少ないことになります。 太陽の視直径が最小で、月の視直径が最大だと継続時間の長い皆既日食が見られます→近年では、2009年7月22日の皆既日食 太陽の視直径が最大で、月の視直径が最小だと継続時間の長い金環日食が見られます→近年では、2010年1月15日の金環日食 ■長時間の皆既日食 長い時間継続する皆既日食の要素に、以下の条件があります。 月の視直径が最大である必要があります。これは、27.55日毎におこります。 次に、太陽の視直径が最小である必要があります。現在、地球から太陽が最も遠くなる遠日点は、6月初旬です。 ちなみに金環日食の場合、太陽の視直径が最大になり地球から太陽が最も近くなる近日点は1月初旬です。 更に日食の時間が長くなるには、本影ができるだけゆっくり移動しなければなりません。 日食時本影の移動速度(宇宙空間) 3680 km/h (地球の公転があるので、月の公転速度と同じではありません。) 日食時本影の移動速度(地上速度) 3380 km/h (地球の公転があるので、月の公転速度と同じではありません。) 北緯・南緯40度の自転速度 1270 km/h (3380km/h-1270km/h=1210km/h・・・この位置では1210km/hだけ本影が移動) 赤道上の自転速度 1670 km/h (3380km/h-1670km/h=1710km/h・・・この位置では1710km/hだけ本影が移動) 緯度の高い地方で日食を観測するよりも、赤道や南北回帰線で観測した方が全ての日食の経過が引き伸ばされます。 更に本影が天頂に見えて最も地球に接近する正午中心では、もう数秒だけ日食の経過が引き伸ばされます。 理論上の皆既日食の最大継続時間は、7分31秒と計算されます。実際は、2186年7月16日の皆既日食が7分29秒継続します。■本影錐の大きさ 右のアニメは、NASAから引用した本影錐の移動の様子です。黒い点が本影錐で、灰色が部分日食の見られる半影です。太陽が月に完全に隠される本影の幅は、2009年7月22日の正午中心食でも258.4kmしかありません。 ちなみに前後10000年間で7分29秒と最も皆既日食継続時間が長い2186年7月16日の正午中心食では、267kmとなり最大幅の本影錐となります。 一方、2010年1月15日金環日食の正午中心食となるモルジブ近辺の金環帯の幅は約333km。前後10000年間で12分23秒と最も金環日食継続時間が長い150年12月7日の正午中心食では、393kmとなり最大幅の擬本影となります。 北極や南極の高緯度地方で起こる中心食では、地軸の傾きによって地表に到達する月の影が斜めに伸びます。極地方の自転速度はゼロに等しく、日食時本影の移動速度は 3380km/hのままとなります。相対的に中心食の継続時間は短くなります。また、本影が斜めになる分だけ本影錐の幅も大きくなります。 近年では、2033年3月30日にアラスカで見られる皆既日食の本影錐が最大で781kmにもなります。しかし、本影の移動速度は極地方なので3380km/h。継続時間も最大で2分37秒に留まります。ちなみに2003年11月24日の南極皆既日食では、本影錐の幅が最大で495kmになりました。 また金環日食では、1932年3月7日の1083kmと言うバケモノのような巨大な擬本影もあります。最も発生地域が南極なので 、南極基地建設も充分ではなかった時代にペンギンだけが観測したことでしょう。この金環日食は、最後の金環日食だったためサロス119の中でも最も広い幅を持つ擬本影でした。 ■上空から見た本影錐の形 左の写真は、ロシア宇宙ステーションのミールが1999年8月11日に撮影したヨーロッパ上空から見た本影錐です。 この皆既日食の正午中心食となったルーマニアでの皆既帯の幅は約112km。 皆既時の太陽高度は59°皆既継続時間は2分23秒でした。これは、直径112kmの月の影となる円錐(本影錐)が上空から見られた珍しい写真です。 この本影錐の中で観測するため、1973年6月30日にアフリカで見られた皆既日食の調査でコンコルド旅客機が使用されたこともあります。コンコルドは2003年11月26日に退役しているので、現在は普通の旅客機で皆既日食の観測がされています。 © Centre National d´Etudes Spatiales これは太陽高度の低い高緯度地方と朝夕のみ有効な方法です。 ■継続時間の違いによる本影錐の形 右の写真は、継続時間が3分16秒と長かった2001年6月21日にアフリカ・ザンビアのルサカ市で撮影した第三接触30秒前の本影錐の様子です。皆既時間が長く、太陽高度が30度と高いため、本影錐は扇の形をしています。これがもっと継続時間が短ければ、逆三角形の形に変化します。 下の写真は、継続時間が24秒と短かった2002年12月4日に豪州リンドハースト北部で撮影した本影錐です。皆既時間が短く、太陽高度が低いため、本影錐は逆三角形の形をしています。これがもっと継続時間が長ければ、逆三角形の幅も大きくなります。 今世紀最長の皆既日食が見られる今年は、北硫黄島付近の海上でほぼ天頂に見られます。天頂で起こる皆既日食は、地平線スレスレで見られる皆既日食よりも本影錐がハッキリと現れません。本影錐の状態を探るには、皆既中に周囲の地平線を見渡してみると良いでしょう。全周360°に渡って夕焼け状態が見られます。そして太陽の方向に行けば行くほど、グラデーションのように周囲が暗くなることが確認出来ます。 まだ記憶に新しいJAXAの衛星"かぐや"が撮影した半影月食中の月では、月に大気が無いためこれほど見事な明暗の分かれる本影錐を見ることが出来ません。地球に大気があって人間がそこで観測するからこそ、見事な本影錐が得られるものだと思います。 ちなみに金環日食でも擬本影の移動が見られます。大変淡い現象なので、よく目を凝らして見ないと見られません。太陽の光が漏れ出すような金環皆既日食では、皆既中の本影錐の移動のように鮮やかな現象になりにくいと言えます。 |