将来の金環皆既日食

金環皆既日食の概要と年表

極細金環日食右の写真は、2005年4月8日にパナマのペドレガルと言う街で撮影した極細金環日食です。
薄雲の影響で、太陽の光を吸収した光輪が多少太めに見えています。

実際に、この状態が継続した時間は1秒だけでした。これがもっと太陽と月の距離が微妙な日食になると、全周囲に渡って彩層か周囲が全てダイヤモンドリング状態となります。

以下、1986年〜2067年までに地球上で見られる金環皆既日食地図とその年表です。
 見られる場所     日  時      U T   Saros  サロスの状態 高度 時間  △T  皆既帯
アイスランド西方沖 1986年10月 3日  19:06:15  124  最後の金環皆既  5°  1秒  55   1km
大西洋・アフリカ   1987年 3月29日 12:49:47  129 最初の金環皆既 72°  8秒 55   5km
太平洋・パナマ    2005年 4月 8日 20:36:51  129 二回目金環皆既 70° 42秒 65  27km
大西洋・アフリカ   2013年11月 3日 12:47:36  143 最初の金環皆既 58°100秒 71  58km
オセアニア     2023年 4月20日 04:17:56  129 最後の金環皆既 67° 76秒 73  49km
太平洋・パナマ    2031年11月14日 21:07:31  143 二回目金環皆既 72° 68秒 79  38km
インドネシア       2049年11月25日 05:33:48  143 三回目金環皆既 73° 38秒 93  21km
南東太平洋     2050年 5月20日 20:42:50  148 最初の金環皆既 29° 21秒 94  27km
ブラジル・アフリカ 2067年12月 6日  14:03:43  143 最後の金環皆既 74°  8秒 130   4km
北太平洋      2164年 3月22日まで金環皆既日食は見られません。
これらは、金環皆既日食の正午中心食でNASAが予報した値です。従って、全て皆既帯の数値となります。UTは世界時間です。
Saros No124は部分日食に後退。Saros No129は皆既日食Saros No143は金環日食Saros No148は皆既日食に成長します。
1986-2067までの金環皆既日食帯世界地図
1986-2067までの金環皆既日食帯世界地図(地図をクリックすると拡大)

この地図は二次元的に描かれたものなので実感が湧かないのですが、地球は球体なので太陽と月の影の到達も地球の正午と朝夕では違いがあります。

金環皆既日食の全体像
金環皆既日食の全体像

中心食の中で、皆既日食と金環日食が同時に見られる日食を金環皆既日食と言います。太陽と月の影に近い側の正午付近では、中心食の幅も伸びて皆既日食となります。また朝夕は太陽と月の影から太陽がはみ出てしまうので、擬本影(ぎほんえい)となり金環日食になります。この場合、日の出や日の入りに近い位置だと擬本影が伸びて結果的に中心食の幅が伸びてきます。


本影錐と擬本影

皆既日食の場合(食分1.000以上)

皆既日食模式図

月が地球に近く、月の影(本影)が地球の陸地に届いた状態で皆既日食が見られます

金環日食の場合(食分0.999以下)

金環日食模式図

月が太陽に近く月の影が地球上空で交差するため、地球上では太陽を隠し切れずに金環日食が見られます(擬本影)


金環皆既日食の遷移点

金環皆既日食の遷移点金環日食の図で、地球上空に月の影が交差した地点(遷移点)があります。これがごくまれに地球上で見られることもあります。このように月と太陽の見かけの大きさが全く同じだと、金環皆既日食 [Hybrid Eclipse]と言う現象が見られます。

このように金環皆既日食とは全地球的に付けられた名称ですが、金環↔皆既の遷移点では金環皆既日食と言っていいと思います。理論上の遷移点では0秒の中心食(これこそが本当の意味での金環皆既日食)となりますが、下の写真で見られたような全周に渡ってのベイリービーズしか見られません。これは、若干皆既側に寄らないと全周に渡ってベイリービーズとなってしまいます。ちなみに、遷移点では本影の幅が0qで継続時間も0秒。食分は1.000です。

1987年3月29日の日食は、日本人が初めて観測した金環皆既日食です。観測地となったガボンのPort Gentilと言う街で、日食情報センターのツアーが実施されました。陸上でわずかに金環帯に位置する観測地ですが、月のクレーターの谷間から太陽の光が漏れ出して全周ベイリービーズが見られました。観測地上空は赤道直下で、熱帯の雲に多少覆われたそうです。そのためノーフィルターで撮影された方が多いそうです。その1サロス後の金環皆既日食でパナマに行きましたが、奇しくも薄い雲に覆われてノーフィルターで
極細金環日食を撮影しました。

右の衛星写真は、1987年3月29日の金環皆既日食帯を示したものです。赤い線が金環皆既日食の中心線で、両脇にある青い線が南北限界線となります。金環帯の幅は、僅か2kmです。このように全周に渡ってベイリービーズが見える状態を、かすり日食(Grazing Eclipse)と言います。
   日  時    U  T   Saros 食分 高度 時間   △T 金環帯
1987年3月29日 13:35:15  129  0.99 59.2°3.6s  55.4  2km
1986.10.3にアイスランド西方沖で見られた かすり日食
1986.10.3にアイスランド西方沖で見られた かすり日食(Grazing Eclipse)のアニメ…Glenn Schneiderより抜粋

1986.10.3にアイスランド西方沖で見られた かすり日食
1986.10.3にアイスランド西方沖で見られた かすり日食(Grazing Eclipse)のGPS

金環皆既日食経路地図
金環皆既日食経路地図〔NASAから転載〕

遷移点での金環皆既日食観測

遷移点での金環皆既日食を観測するには、大変な困難を極めます。例えば、上記の金環皆既日食経路地図の下側に22:00UT 00m00s 32°と書かれています。ここが遷移点となりますが、洋上のため観測は困難でした。中心食の幅も0mなので、船が動く海上では観測に困難を極めます。

今後、陸上の遷移点で日食が見られる可能性のあるものは、2013年11月3日の金環皆既日食です。海上で見られる遷移点は除外します。ここでの観測場所は、私ならアフリカ・ガボンの海岸沿いで68秒間の皆既日食を見たいです。しかし、陸上での中心帯は全て皆既日食となります。2013年11月3日の金環皆既日食はかなり変則的で、朝方のわずかな間しか遷移点が現れません。実質2013年11月3日の日食は、陸上全域で皆既日食であると言えます。

アクセスしづらいのを度外視すれば、2013年11月3日の日食でも金環皆既日食に近い状態の中心食が見られます。中心帯の掛かるエチオピアとソマリア国境付近は、太陽高度が4度と大変低いのですが5秒程度の中心食が見られます。クレーターの影響で皆既帯でありながら僅かにクレーターの谷間から太陽の光が漏れ出し、全周に渡ってベイリービーズが見られるかも知れません。この場所の皆既帯の幅は、約5km程度です。

2023年4月20日の金環皆既日食も、洋上以外は全て皆既日食が見られます。2031年11月14日の金環皆既日食は、金環帯がパナマで見られるだけです。観測できる望みは薄くなりますが、2049年11月25日の金環皆既日食が唯一遷移点で見られる日食だと言えます。

2049年11月25日の金環皆既日食経路地図
2049年11月25日の金環皆既日食経路地図・・・青い線が金環皆既遷移帯

この図では、0.3sと描かれた箇所が遷移点のある金環皆既日食帯です。但し海上のため、以下の衛星写真にあるように5.0sで観測するシュミレーションをします。

2049年11月25日の金環皆既日食経路地図
2049年11月25日の金環皆既日食経路地図〔5.0s付近を拡大〕・・・青い線が金環皆既遷移帯

全周ベイリービーズ(合成)中心食の継続時間が5.0sでも、遷移点の幅は青い線を中心とすると僅か3kmしかありません。砂州の海岸側で観測するのがベストでしょう。

月にはギザギザのクレーターが無数にあります。クレーターの影響を考慮すると、太陽と月が重なってもクレーターの谷間から太陽の光が漏れてしまいます。

右の写真は、2002.12.4に豪州リンドハーストで撮影したものです。第二接触と第三接触のダイヤモンドリングを合成した写真です。僅か5秒の継続時間でも、このような全周に渡ってベイリービーズが見られる中心食が見られるに過ぎません。

これは1/1000秒で撮影した写真です。実際に目で見るとコロナがうっすらと見えたのも束の間、すぐにダイヤモンドリングが始まります。 これが金環皆既日食の全貌です。まるで全周ベイリービーズのような日食です。こんな日食を、一生に一度は見てみたいものですね。
全周彩層の皆既日食
全周彩層の皆既日食・・・2002年12月4日に撮影(24秒の皆既日食)

2049年11月25日の金環皆既日食は、NASAの資料からGPSで場所を割り出しました。20年以上先の日食は△T(太陽と月の日周運動に対する運動量の割合)がかなり変化することが見込まれるので、正しい場所ではなくなるかも知れません。


△Tとは何か

紀元前1999年〜紀元前1980年の日食帯過去や未来の日食については食が起きる時点での地球自転の遅れ(△T = DT - UT)の値がどの程度になるかが不明のため、△T の推定値を用いて日食の予報が計算されます。

△T値の増減によって、皆既及び金環帯の位置が西か東にずれることがあります。現在の△Tは66となっており、ほぼ正確な値です。現在は予報されている通りの皆既及び金環帯で、それぞれの現象が予報された場所で正確に見られます。

NASAが予報した過去の日食帯は、△Tの数値が著しく増大するので紀元前1999年までしか表記されません。未来の日食帯も同様に西暦3000年までしか予報されていないのです。

右図にあるBC1999-BC1980の日食帯は正確な場所で日食が見られるとは言えず、日食が見られる場所はかなりずれてしまいます。日食帯がどの範囲に分布しているのか確かめるには良い資料と言えます。この時代の△Tは、紀元前1999年6月12日の皆既日食で46438と言う数値になってしまいます。地図の上に示されている△Tの数値の移動を示す矢印も甚だしくなってしまいます。地図をクリックすると拡大されます。
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